ビートルズの「HEY JUDE」の和訳

はじめに

ビートルズのポールマッカートニーが作った Hey Jude の歌詞の意味を考察してみようと思います。この曲は、人によってさまざまな捉え方で解釈されています。それにもかかわらず世界中で大ヒットしました。和訳するということで自分の考え方をさらけだすような一面もあります。

 

私の場合、家族のことや経済的なこと、仕事などいろんなことがうまくいかないときに、この曲の中の make it better (よくしていこう)という言葉が心に響きました。この歌は私にとっては、大事な歌の一つです。

 

この歌で私が好きなのは、繰り返し出てくる Then you begin to make it better という部分です。「そうすればよくなっていくよ」ではなく、「そうしたらよくしていくことが始められるよ」というところです。人間は神様じゃないので未来のことなんて誰にもわかりません。「こうすればいいよ」とか「ああすればよくなるよ」のような予定調和的または理路整然としたアドバイスなんかほとんどできるわけありません。我々人間にできることは、ただ「よくしていこう」という意志を持つことと、そのために動きはじめることなんだ思います。この歌は、それをストレートに歌っているように聴こえます。

 

歌詞の和訳と解説

最初から順番に歌詞を訳してみます。

Hey Jude! Don't make it bad!

Take a sad song, and make it better.

Remember to let her into your heart.

Then you can start to make it better.

ヘイ、ジュード! 物事を悪く捉えちゃいけないよ。

心に寄り添う悲しい歌を聴いて、いろんなことを回復させていこうよ。

彼女を君の心の中に迎い入れることを忘れないで。

そうすれば、「よくしていこう」が始められるよ。 

 

この曲は it がたくさん出てきて、それをどう捉えるかでパズルのように意味が変わってきます。

 

最初の Don't make it bad! ですが、 it を心の状態と考えれば「気を悪くするなよ」「落ち込むなよ」のような意味になります。私は一般的な物事であると捉えました。

1行目の Don't make it bad! は、「物事を悪く捉えるな」という意味になります。

4行めの Then you begin to make it better は、それに対して「物事をよくしていくことが始められるよ」という意味になります。

 

2行目の  Take a sad song and make it better に対して、it を sad song と考えて「悲しい歌だって良くできるよ」のように捉えるのには違和感があります。例えば、Yesterday はビートルズの代表的な悲しい歌ですが、良くしなければならないような悪い歌ではありません。Yesterday は突然会えなくなってしまった人への想いや動揺など、聴く人の心に寄り添っていろんなことを考えさせてくれます。この場合の it は精神状態を含めた物事で、悲しい歌を聴いていろんなことを考えて、その it を改善していこうという意味だと思います。

 

2番に進みます。

Hey Jude, don't be afraid! 

You were made to go out and get her.

The minute you let her under your skin

Then you begin to make it better.

ヘイ、ジュード! こわがらないで

君は、彼女のところへ行き彼女の心を捉えるために生まれてきたんだ。

彼女がいつも気になるようになったらその瞬間に、

「よくしていこう」が始められるよ。 

you let her under your skin の部分がわかりにくいですね。

彼女が皮膚の下にいるということは、彼女のことが自分の心の中に入り込んでしまって容易に取り除けないという状態という意味で、「いつも気になる」という表現にしました。

 

次の歌詞に進みます。

And anytime you feel the pain. Hey Jude! Refrain!

Don't carry the world upon your shoulder

For well you know that it's a fool  who plays it cool

by making his world a little colder

苦痛を感じたときはいつでも、ジュード!  立ち止まろう。

世界を自分の両肩で背負い込もうなんて思わないで。

わかってると思うけど、

実際よりも冷たい世界観をもって、

冷めてふるまうのはバカバカしいことだからね。 

 

refrain の意味を調べると「耐える」「やめる」などとなっています。進むのを止めて引き返すのではなく、進む気持ちを抑えて立ち止まるというような意味だと考えました。

 

world が2回出てきます。the world は全世界を表すのに対し、his world は彼だけの個人的な世界なので世界観と訳しました。世界中の苦悩を全部背負ってしまうような重苦しい気持ちになることも、冷たい世界観に陥ってしまうことも、make it bad (物事を悪く捉えること)そのものです。バカバカしいからそんなこと止めようということだと思います。

 

For well you know that It's a fool who 〜 の部分は、it's a fool that 〜 や it's a fool to 〜 で「〜は愚かなことだ」となるのが普通だと思います。it's a fool who を使って「~は愚かな人だ」となるのは少し変な気がします。

 

 次へ進みます。

Hey Jude!, don't let me down!

You have found her, now go and get her.

(let it out and let it in)

Remeber (Hey Jude!) to let her into your heart.

Then you can start to make it better

ヘイ、ジュード、がっかりさせないで。

彼女を見つけたら、行ってつかまえよう。

(気持ちを入れ替えて! ヘイ、ジュード!)

彼女を君の心の中に受け入れることを忘れないで。

そうすれば「よくしていこう」が始められるよ。

 

let it out and let it in の解釈が難しいです。人の和訳をググると「(自分を)さらけだして、(彼女を)受け入れよう」という捉えかたもありますが、私にはそこまでの意訳は無理です。

部屋の空気を入れ替えるという意味で let dirty air out and let fresh air in ということがあります。空気と同じように気分を入れ替えるという意味で、let it out and let it in を使っていると考えました。おそらく、make it bad で表されるネガティブな気分から、 make it better というポジティブな気分に入れ替えることだと思います。

 

あとの部分は一気に訳します。

So let it out, and let it in.

Hey Jude! Begin!

You’re waiting for someone to perform with

And don't you know that is just you.

Hey Jude, you'll do.

The movement you need is on your shoulder.

さあ、気持ちを入れ替えて

ヘイ、ジュード、はじめよう

誰か一緒にやってくれる人を待っているんだよね。

君だけしかいないはわかるよね。

ヘイ、ジュード、君はきっとやるよ。

君に必要な行動は君の肩にかかってるんだ。 

 

Hey Jude,

Don't make it bad

Take a sad song and make it better

Remember to let her under your skin

Then you begin to make it better, better, better, ...

ヘイ、ジュード、物事を悪く考えないで。

悲しい歌を聴いて、いろんなことを回復させていこうよ。

彼女のことをいつも気にすることを忘れないで。

そうすれば、「よくしていこう」が始められるよ。

 ビートルズの青盤(The Beatles / 1967-1970) のLPレコードは、レコードを入れる袋に歌詞が書かれていて、この後の歌詞は、

YEH YEH YEH YEH YEH YEH YEH DA DA DA DA DA DA DA HEY JUDE ...

となっています。昔は、Da Da Da ... で覚えていたのですが、最近の歌詞カードでは Na  Na Na ... になっています。よく聴くと Na Na Na ... の方が正しそうですね。

 

ジュリアンに向けた言葉

この歌は、ジョンレノンと前妻シンシアが不仲になったときに、ジョンの息子ジュリアンを慰めるために書かれました。歌の内容は彼女のハートを掴むためのアドバイスのようにも見えますが、そういう一面もあります。

 

不安になってる小さな子どもに、まわりの大人はどんなことを言ってあげられるんだろう? 「心配しないでね。君はみんなに愛されるために生まれてきたんだよ。」のような言葉でしょうか? 大切にされているんだという自信を持たせてあげたいというか。

Hey Jude, don't be afraid!

You were made to go out and get her.

は、そんな内容を言い換えたものだとも考えられます。

孤独でよそよそしい状態に陥らないで欲しいというメッセージを感じます。 

ビートルズの「LET IT BE」の2つの意味

「あるがままに」と「それを実現させよう」

ビートルズの Let it be には、次にような2つの意味があると思います。1つはほぼ定説である「あるがままになるがままに」です。もう1つは最近考えてる自説で、より単純に直訳して「それを実現させよう」のような意味です。これまでとは歌詞の意味が違ってしまいますが、ここ数年はこんな意味に聴こえています。

あるがままになるがままに

ビートルズが解散したころ小学校低学年だったので、ビートルズをちゃんと聴き始めたのは中2のころのリバイバルからです。私が初めて目にした Let it be の和訳は、ビートルズの青盤のLPレコードのブックレットにかかれていたものです。もう何十年も前になります。当時の物はもう手元に無くなってしまったので正確ではないのですが、意味はこんな感じだったと思います。

When I find myself in times of troubles, 

Mother Mary comes to me, speaking words of wisdom,
Let it be.

トラブルの渦中にあるときに、
聖母マリアが現れて叡智の言葉をくださった、
あるがままにしなさい

ブックレットに中で、和訳された方がどう訳すべきか悩んだことをコメントされていた記憶があります。


Let というのは、「〜させる」と訳されますが、強制ではなく対象となるものの意思どおりにさせることを意味します。そこから自分の意志を加えず「あるがまま」になることを許すという意味が出てきます。だから、

「あるがままにさせなさい」

という解釈は正しいと思います。これが1つ目の意味です。

さらに意訳して、「なるがままに」「なすがままに」「そのままでいいよ」「ほうっておきなさい」「あるがままに、流れに身をゆだねなさい」などいろんな和訳があります。


悩みから解き放されるような癒やしが感じられます。
このような解釈でこの曲を聴いて癒やされた人はたくさんいます。
また、マリア様のお告げのような宗教的雰囲気が好きな人も多いと思います。

それを実現させよう

一方で、Let it be という楽曲が、聖母マリアが天使から処女懐胎(処女のままイエス・キリストを授かったこと)の告知をうけたときの言葉に影響を受けているという説があります。次のような言葉です。

Let it be to me, according to your word
御言葉のままに、私の身でそれを実現させてください

ただし、楽曲を作ったポールマッカートニーは夢枕に現れた癌で亡くなったお母さん (Mary) の言葉が元になっていると言っています。

この告知の場面の Let it be は、少女だった聖母マリアが天使や神に対して言った言葉の一部です。Let it be の be は exist (存在する) に近い意味で、it(天使の御言葉の内容)を存在するものにさせることになります。つまり Let it be の部分の意味を直訳的に素直に取り出すと

「それを実現させてください」

になります。「そうなりますように」というより祈りの言葉に近い意訳も可能です。これが2つめの意味です。

 

聖母マリアのような偉い人が我々に向かって Let 〜 というときは、「〜させなさい」という命令のような感じになります。しかし、少女が神様とか天使に向かって言うのならば「〜させてください」のように自身の祈り言葉のような感じになります。自分や友人に向かってささやくなら、「〜させよう」のような自身の決意や他者への呼びかけのような感じになります。

 

そういう見方で歌詞を見直すと、Mother Mary says to me とか Mother Marry tells me のように Mother Mary がポールや歌を聞いている我々に直接話しかける表現ではなく、Mother Mary comes to me, speaking ... というように「唱えながら現れる」という表現になっています。誰に向かって Let it be と言ったのかわからない、どちらともとれる表現ですね。また、wisper words of wisdom, let it be の部分は、歌ってるポール自身や曲を聴いている我々に向かって「叡智の言葉、let it be をささやこう」と呼びかけています。

 

あるがまま、なるがままということは、キリスト教徒にとっては神の御言葉のままになることと同じです。苦悩を伴うこともあるので、必ずしも解放とか癒やしになるわけじゃありません。
いくら御言葉であっても、生まれてくるのがイエスキリストであっても、処女懐胎はマリア本人も世間もなかなか受け入れられるものではありません。石を投げられて命さえも狙われます。少女のマリア自身がたくさんのトラブルの中にいる状態です。それでもマリアは、天使に「それ実現させてください」と言い、自分に「それ実現させよう」とささやきます。

 

あまりうまく説明できませんが、我々が聖母マリアから賜った「あるがままにさせなさい」という言葉に従うということは自己の意志を排した消極的態度にも受け取れます。それに対して、自分が神様やまわりの人に「それ(御言葉)を実現させてください」と言う場合は、自己の意志を積極的に御言葉に合わせていくことになります。おそらくキリスト教徒にとっての受容するということは、受動的なことでなく、「御言葉=私の意志」であると能動的に捉えていくことだと思います。我々が自然の理(ことわり)を見い出して「それを実現させよう」と決意することと、キリスト教徒が御言葉について「それ実現させてください」と祈ることは、実際はあまり違わないと私は思います。YouTube で検索すると Carpool  Karaoke という番組の中でポール・マッカートニーが、 Let it be という言葉は母親がくれた positive word (積極的な言葉)だと言っています。

 

同じような Let の使い方に、Let the flower bloom! (花をさかそうよ)があります。花を手折らずにほうっておこうという意味から枯れたり折れたりしないようにだいじに育てようという意味まで、状況によって色んな解釈が可能です。

 

こんなことを考えながら歌詞を意訳してみます。

When I find myself in times of troubles
Mother Mary comes to me, speaking words of wisdom,
Let it be
And in my hour of darkness
She is standing right in front of me, speakig words of wisdom
Let it be
Let it be, let it be, let it be, let it be, wisper words of wisdom,
Let it be.
トラブルだらけの中にはまりこんだと感じたときには、
聖母マリアが大切な言葉を唱えてる場面が思い浮かぶんだ。
「それを実現させてください」って。
目の前が真っ暗で絶望的なときに、
彼女が目の前にこういいながら現れるんだ。
「それを実現させよう」
彼女は何度も「それを実現させよう」って言うんだ。
私もささやこう、「それを実現させよう」って。

Let it be, Let it be, Let it be, Let it be ... と繰り返すうちに、
「それを実現させてください」という祈りのような意味から「それを実現させよう」という決意に変わっていくような感じがします。

現存するものか、未だ無いものか

楽曲 Let it be を聴く人が想定する it が、もうすでに存在するものか未だ存在していないものかで上の2つの Let it be の意味が変わると思います。
現存するものや現状に対して「あるがままにさせよう」という意味と、まだ無いものに対して「それを実現させよう」という意味と。

ポールマッカートニーはソングライターですから、未だ存在してない楽曲を存在させる人です。それから Mother Mary に付いた Mother(母)という言葉も生み出す人を暗示するんじゃないかな。

 

引き続く次の歌詞にでてくる it は、未だ見つかっていない answer を表すと考れば、Let it be の意味としては、「その答えを見出そう」とか「実現させよう」の方がしっくりくると思います。心の問題なので、暴力や権力や金などをつかって無理やり何かを捻じ曲げて実現できるものではなく、やはり「なるがままに、あるがままに」に実現させるわけですけどね。

 

living in the world, agree の部分は、最初の方の Mather Mary comes to me のメロディーに対応しポールの声が高音で優しくなります。「世界中で生活している〜」よりももう少し生きていることを強調した感じになると思います。

 

次の部分を訳します。

And when the broken hearted people, living in the world, agree.
There will be an answer, Let it be.
For though they may be parted, there is still a chance that they will see.
There will be an answer, Let it be.
Let it be, let it be, let it be, Let it be.
There will be an answer, Let it be.
Wisper words of widsom, Let it be.

心が壊されてしまった人々が、なんとか生きていくことができて、受け入れ合うことができたとき
一つの答えにたどり着くはずなんだ。それを見出そう。
心が離れ離れになることはあっても、まだわかり合えるチャンスはある。
一つの答があるはずなんだ。答えを実現させよう。
実現させてください。実現させよう。
一つの答えはあるんだ。見出そう。
叡智の言葉をささやこう。実現させよう。

間奏とサビを挟んで次の部分の Let it be は、it がすでに存在している light (光)なので、「あるがまま、なるがまま」の意味になります。

And when the night is cloudy, there is still a light that shine on me.
Shine until tomorrow
Let it be.

どんより曇った夜に一筋の光が私に注いいでいる。
明日まで光り続けてください。
あるがままに。

どちらもありかな?

続く部分の I wake up to the sound of music は、「音楽の音で目が覚める」とう意味に捉えられることが多いです。でも、wake up to 〜 は 「〜で目覚める」という意味の他に「〜に目覚める」とか「〜に気がつく」の意味があります。

 

夏目漱石の短編「夢十夜」中で、運慶が彫刻するのを見た人々が、そのようすを運慶が最初から木の中に埋まっている仁王像を堀り出しているだけだと噂話している話があります。ミケランジェロにも、同じように石の中に最初から石像が埋まっているという意味の言葉が残ってます。
ポールも同じような天才なので、楽曲を作ることが最初から頭の中に流れている音楽を演奏することになると考えられないでしょうか?

 

そんなことを考えながら訳してみます。

I wake up to the sound of music
Mother Mary comes to me
Speaking words of wisdom, Let it be.
Let it be, Let it be, Let it be, Let it be
There will be an answer, Let it be.
Wisper words of wisdom, Let it be.

気づくと頭の中で音楽が流れてる。
聖母マリア(お母さん)が大事な言葉を声にしながら現れるんだ。
「それを演奏してごらん」
演奏してみよう。それを実現させよう。ありのままに。
答えはあるんだ。それを実現させよう。
叡智の言葉をささやこう。実現させよう

ポールマッカートニーが Let it be を歌ってること自体が、未だ存在しない頭の中にだけある音楽を実在させることになります。


最初から木の中にある仁王像のことや頭の中で流れている音楽のことを考えだしたところで、もうすでに存在するものと未だ存在していないものの境がなくなってしまいます。ポールマッカートニーの場合、名曲 Yesterday も夢の中で流れたメロディらしいしね。

 

結局、2つの意味はどちらもありかな?

 

参考